2025.03.05

[コラム]マーケティング戦略における『LTV』の重要性

#LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)

ビジネスモデルの変革、市場の飽和、人口減少と様々な要因により
近年その重要性に注目が集まっている「LTV」という指標。
この指標がなぜ重要で、どのように向上させ、そのためには何が肝要であるのかをマーケティングの視点から紐解く。

LTVとは

LTVとは「Life Time Value:ライフタイムバリュー」の略称であり、
日本語では「顧客生涯価値」と訳され、顧客が企業との関係を通じて、
その生涯にわたってどれだけの価値をもたらすか、その総額を表す指標である。

LTVを明らかにすることで、自社の提供する商品・サービスの利益体質の把握や
優良顧客の傾向を分析することが可能となる。
どのターゲットに対してどのようなアクションを取るべきかといった戦術策定の助力になり、
更には顧客獲得コストと維持コストの目標数値の算出なども可能となり、
健全な経営体制を整えるうえでも重要な指標といえよう。

マーケティング領域においてはコストを抑えながら利益に貢献することは至上命題であり、
適切な経営判断を行うためにもLTVを成果指標として捉えることで
その貢献度やマーケティング施策の良し悪しの判断基準とすることができる。

LTVが注目されるようになった背景

ここまででLTVという指標が企業経営においていかに重要な役割を担うかについては理解いただけたかと思う。
ではなぜ近年このLTVが声高に叫ばれるようになってきたのか、その背景に触れていきたい。
LTVが注目されるようになった主な理由・背景として、以下の3つが挙げられる。


(1)新規顧客獲得の難化とそれに伴う顧客ロイヤリティ向上の必要性
(2)ビジネスモデルの変革
(3)ツール発展によるカスタマーサクセスの実現

(1)新規顧客獲得の難化とそれに伴う顧客ロイヤリティ向上の必要性

日本国内では少子化が叫ばれるようになって久しいが、これは労働力の減少に加え、
売り手の視点から見ると見込み顧客の絶対数減少という側面も併せ持つ。
一方でツールの発達やOEMの流行によりブランドオーナーとしてビジネスを始動するハードルは以前よりはるかに低くなった。
インターネット販売によるD2C(Direct to Customer:消費者直接取引)市場も盛況であり、
元来保守的であると捉えられていた農業においても広く浸透している。
こうした敷居の低さから新規参入者が増えることで市場競争が激化している状況とも言える。
高度経済成長期以降、国内では様々な分野で目まぐるしい発展を遂げてきたが、
結果として現代の市場ではあらゆる商品・サービスが飽和状態となり、企業間でのパイの奪い合いとなっている。
ビジネスの継続や更なる成長を目指すには新規顧客の獲得が欠かせないが、品質や価格など商品力で競合他社との
差別化を図る事は容易ではない。
供給過多に加え、機能面でのコモディティ化や人口減少による市場縮小が進むと、新規顧客獲得の難易度はさらに上がり、
コストの高騰が懸念される。


マーケティングの通説として、「1:5の法則」がある。
これは既存顧客との維持によって得られる利益に対して新規顧客の獲得により同様の利益を得るには5倍のコストを要するという法則である。
似たような法則として「5:25の法則」というものがあるが、
これは顧客の離脱を5%抑える事ができれば利益率が25%向上するという法則であり、
いずれも新規顧客ではなく既存顧客維持の有用性を説明する法則である。


これらの背景により既存顧客との長期的関係を築く事の重要性が高まっている。
そこで注目が集まっているキーワードが「顧客ロイヤリティ」である。
顧客ロイヤリティとは顧客が自社の商品・サービスに対して感じる信頼や愛着を指す。
一般的に顧客ロイヤリティが高い企業やサービスであるほど一人の顧客がもたらすLTVが高くなる傾向にある。
自社の商品・サービスに対するファン、つまり顧客ロイヤリティが高い顧客を「ロイヤルカスタマー」と呼ぶが、
そのような顧客ほど競合他社に流れづらく、長期間にわたり継続的に商品やサービスを利用するため、よりLTVが高くなる。
さらにSNSなどで好意的な口コミを発信してくれるという特徴がある。
このような顧客ロイヤリティの強さを図る指標の一つがLTVであり、LTVを高める施策を実施することでロイヤルカスタマーが増加し、
既存顧客の維持が容易になり売上増加に繋がる事となる。

(2)ビジネスモデルの変革

昨今、急激に注目を集めており、そのサービスも年々増加しているビジネスモデルが「リカーリング」と「サブスクリプション」である。
一般的に「リカーリング」は従量課金制「サブスクリプション」は定額性という棲み分けで認識されているが、
いずれも継続的な契約関係により長期的な利益拡大・収益安定化を狙うビジネスモデルである。


インターネットテクノロジーの進化と共に、ミニマリズムの流行なども影響しモノを所有しない概念が浸透していくことにより消費者のニーズが変化し、
従来の売り切り型のビジネスモデルから初期費用が比較的安価で手軽にサービスの利用を始められるサブスクリプションモデルの流行に繋がった。
言うまでもなくリカーリングやサブスクリプションといったビジネスモデルでは
長期的なサービスの利用が売上最大化のカギとなり、LTVは重要な指標となる。

(3)ツール発展によるカスタマーサクセスの実現

前述した通り、環境の変化も相まって消費者の趣味嗜好も多様化しており、
これまでの画一的なマスマーケティングでは多岐に渡る顧客のニーズを満たすことが難しくなってきている。
そういった背景から近年では顧客ひとりひとりに合わせたOne to Oneマーケティングが主流になりつつある。
One to Oneマーケティングとはそれぞれ多様且つ異なる顧客のニーズや嗜好、購買履歴に合わせて個別に展開されるマーケティング手法を指す。
このような顧客情報の管理やデータの分析において、インターネットの普及に伴いDXが推進され、CRM(顧客関係管理)ツールや
チャットボットのようなMA(マーケティングオートメーション)ツールなど、様々な効率的且つ効果的なツールが開発されるようになり
顧客の「カスタマーサクセス」が可能となった。
カスタマーサクセスとは、顧客の目標達成や成果の実現を長期的にサポートし企業の売上を伸ばすこと指す。
AI技術を搭載したツールにより顧客との継続的なコミュニケーションが可能となり、顧客ロイヤリティを養うことに寄与するようになった。
顧客ロイヤルティを図る指標の一つがLTVであるというのは①に記載した通りである。


他にも理由は挙げられるが主に上記3点がLTVの重要性に脚光が集まった背景である。

LTVの算出方法

LTVはさまざまな算出方法で求める事が出来るが、代表的なものを紹介する。

LTV = 平均購入単価 × 粗利率 × 1年間の平均購入回数 × 継続年数

最も代表的でシンプルな計算式が上記となる。より具体的に数字を代入してイメージすると、
粗利率40%で単価20,000円の商品を毎月1つ、5年間継続して購入した顧客がいたとした場合、
「LTV=20,000円(単価)×0.4(粗利率)×12(平均購入回数/年)×5(継続年数)=480,000円」となり、LTVは480,000円である事が算出できる。
上記は利益率を掛け合わせる事により利益ベースでLTVを算出しているが、この数値から顧客一人当たりの
獲得・維持に掛かるコスト(=CAC: Customer Acquisition Cost)を差し引くと、コストを考慮したLTVを算出することが出来る。

LTV = 平均購入単価 ÷ チャーンレート(解約率)

こちらは主にサブスクリプション型のビジネスモデルで活用される計算式である。
平均購入単価には「ARPU(=Average Revenue Per User)」などが該当するがこれを計算するためには、
一定の期間(例:1ヶ月や1年)の総収益を顧客数で割る事で求められる。
似たような指標として「ARPA(=Average Revenue Per Account)」があるが、これは1アカウントで複数のデバイスを利用するケースや、
1契約アカウントで複数ユーザーが存在するケースが増えたことから考えられた指標である。
チャーンレートは、一定の期間において顧客が解約する割合を指す。


1ヶ月間のチャーンレートを求める場合、例えば月初に100人の顧客がいて、その月に10人が解約したと仮定すると、チャーンレートは10%となる。
チャーンレートには上記のように顧客数ベースのカスタマーチャーンレートに加え、収益ベースで算出するレベニューチャーンレートもある。
カスタマーチャーンレートでは、顧客数ではなく契約アカウントベースでの算出も可能であるが、複数の料金プランがあるサービスの場合は、
カスタマーチャーンレートに加えてレベニューチャーンレートも把握する必要がある。
前提としてサブスクリプション型のビジネスでは顧客獲得コストの大部分が初期費用として発生する一方、収益は累積となる。
掛けたコスト(投資)の回収が中長期的になるため、いかに顧客を維持(=リテンション)するかがカギとなるが、
抑えるべき点としてチャーンレートは月次と年次で大きく数字が異なる点は留意する必要がある。


LTVの算出においては自社にとって最適な計算方法と管理方法を定める事が重要となる。

ユニットエコノミクスとは

LTVと併せて抑えるべき指標として1顧客あたりの採算性を指す「ユニットエコノミクス」がある。
ユニットエコノミクスとは「顧客獲得のために投入したコスト」と「獲得した顧客から得られる利益」のバランス測るために用いられるが、
これは「LTV ÷ CAC」により求める事が出来る。
一般的にユニットエコノミクスは3以上である状態、つまりLTVがCACの3倍より大きい状態が健全だと言われている。

LTV最大化を目指すマーケティング施策例

LTVは1人の顧客の購入金額と結びついているため、購入単価を上げればLTVも向上するが、最大化を目指すには顧客の継続的なエンゲージメントや
リピート購入を促進し、解約率を低減させる施策が重要となる。
例として以下の施策により、LTVを向上させることができる。

(1)購入単価を上げる

顧客の購入単価を上げることでLTVは向上するため、値上げによって販売単価を上げる事は可能であるが、反面、顧客の離脱や反発を招くリスクがある。
そのため、有効な施策としては「アップセル」「クロスセル」が挙げられる。
アップセルは、顧客が購入しようとしている商品よりも高価で高性能な商品やグレードアップしたサービスを提案する方法である。
クロスセルは、顧客が購入している商品と関連性のある他の商品を提案する方法である。
パソコンの購入者に対し、マウスやキーボードなどの関連商品を提案することやシャンプーとコンディショナーをセットにして販売する方法などが挙げられる。

(2)購入頻度を高める

購入頻度を高める事もLTV向上には有効である。
そのためには、商品やサービスに関連するキャンペーンを実施するなど、
商品やサービスを利用する場所や接点を広げる事が重要となる。
例えば顧客の過去の購入履歴や趣味・趣向に基づいた広告キャンペーンを展開することで、
購入を促進したり、リターゲティング広告を用いてアプローチするなどが有効な施策となる。

(3)コストを下げる

コストを下げる事でLTVの向上は期待できるが、製品やサービスの品質が低下すると顧客ロイヤリティが損なわれ、離脱の原因となりかねない。
そのためにはデジタルツールをフルに活用し、リソースを最適化した効率的なマーケティング・営業施策を行う事で、
サービス・商品の品質を確保したまま顧客維持コストを削減することが重要となる。

例えば製造業における製品の品質管理では顧客からのフィードバックが重宝されるが、
顧客アンケートやオンラインレビュー、SNSからのフィードバックなどのデータを人間が集計する場合、データ量に応じた人件費と時間を必要とするが、
あるメーカーではAIによる解析を行う事で頻繁に報告される問題点を一元的に抽出し蓄積している。
そのデータを基に製品の改善や不具合の修正を効率的に行う事で、品質を担保しながら人件費を抑えることでコストを下げる事に繋げている。
同様に食品業界などではAIを用いた画像解析ツールによって正常な商品の画像をもとに、色・形状・サイズが基準を満たさなかったり、
汚れがついている不良品を検知し、自動で取り除くシステムなどが導入されており、こちらも品質を落とさずに検品における人員を減らす事で
コスト削減を実現している。

(4)解約率を下げる

解約率を下げ、顧客に長く製品やサービスを活用してもらうこともLTV向上には不可欠である。
顧客ロイヤリティを向上させ解約や離反を防止する施策としてパーソナライズされた体験の提供などがある。
顧客の行動データや購買履歴を基に、パーソナライズされたオファーやコンテンツを提供することで、
顧客のエンゲージメントを高め満足度を向上に寄与する。
例として、個別の推奨商品やサービス、誕生日や記念日のお祝いメッセージなどが挙げられる。
また、顧客が問題に直面した際に、迅速に対応できるサポート体制を整えることは顧客満足度を高め、
解約率を低下させるために非常に重要である。
オンラインチャットやFAQ、電話サポートなど、複数のサポートチャネルを提供すると、顧客の安心感を高めることが出来る。
行動心理学には「インキュベートの法則(21日間の法則)」というものがあり、 これは簡単にいうと新たに習慣化したいことを
21日間継続すれば定着するというものだ。
初月無料キャンペーンやサービス毎に解約率が高くなる期間があるのであれば、それらの期間にフォーカスした
インセンティブ付与などの施策が考えられる。


これらの施策は互いに連動させ考える事も可能である。

LTVまとめ

LTVを向上させるためには、顧客が長期間にわたって企業と関係を維持し続けるための施策が重要となる。
企業としては「顧客の満足度を高め、解約率を下げ、再購入やリピート利用を促進」するために、さまざまな戦略を組み合わせて実施することが求められている。
そして事業を効率的かつ効果的にスケールしていくためには、LTVを指標としてマーケティング施策のPDCAを回す必要がある。
ビジネスモデルの変革とAIテクノロジーの進化に伴い、様々なデジタルマーケティングツールが発展しており、
企業としてはそれらを活用しながら適切にLTVを算出・管理する事が群雄割拠の現代市場を生き抜く肝といえよう。

記事執筆者・監修者
SQOOPY株式会社